LINE株式会社にあらたに5人の執行役員が加わりました。今回はその中の一人、当社最年少役員(33歳:1982年生まれ)となったLINE企画室の稲垣あゆみがいまどんなことを考えているのか、話を聞きました。

「LINE」メッセンジャーの企画者として、サービスを立ち上げた経緯から、企画室のメンバーに求める能力等、ざっくばらんに語ってもらいました。

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「LINE」ができるまで


--まずは現在、どのような仕事をしているのか、改めて教えてください。
稲垣:今はLINEのメッセンジャー、LINE STOREのPM(プロジェクトマネージャー)と、LINE企画室の室長をやっています。LINE企画室では、LINE企画チーム、ローカライズのチーム、CS(カスタマーサービス)のチームがあります。その他にもLINEバイトやLINEクリエイターズマーケットなどの周辺サービスの企画進行もまとめてやっています。

--幅広く活躍されてますね。そのベースとなるLINEを作り始めた経緯から聞かせてください。
稲垣:私は2010年の年末からネイバージャパンで新しいソーシャルのアプリやサービスを作るところから始まりました。最初はメッセンジャーなのか、写真なのか、名刺交換とかオフィスシーンで使えるものなのかと、いろいろと検討しました。プレゼントやEC系も研究しましたね。リサーチをしていく中で「メッセンジャーか写真だね」という話になりました。その後、私とそのときの上司2名でメッセンジャー、他のメンバーは「フォトアルバム」を進めることになりました。

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--そのメッセンジャーのチームは、企画や開発、デザイン含めると、何人ぐらいいたんですか?
稲垣:開発が8人ぐらいでサーバも4、5人いて、合計で20人ちょっとぐらいですかね。

--それが今ではかなり人数が増えていると思います。企画を立ち上げたメンバーとして、この状況についてどう思いますか?
稲垣:仲間が増えていると感じています。最初からやっているメンバーも割と残っていて、その人たちに関してはやっぱり「戦友」っぽい感覚がありますね。

最初にプロジェクトが本格化したのが2011年4月末で、リリースしたのが6月23日だったのですが、6月上旬にAppleのQA(アプリの審査)に出したんです。その直前が最後の追い込みの時期で、ほぼみんな週末もなく働いていました。AppleのQAに出す前の週末に、テストバージョンみたいなものを使ってバグとかの話をしたんですけど、その時のキャプチャはまだ保存してあります。“6月○日(日曜日)出社組”みたいなグループをテストで作ってやり取りしたんです。

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<6月○日(日曜日)出社組の画像>

最初の頃、みんなで作業している写真なんかは本当に懐かしいですね。

リリース直前に流した悔し涙とうれしい誤算


--今のお話を聞くと楽しそうに聞こえますが、2011年まではいくつかのアプリを出してもなかなかうまくいかず…みたいな状況もあったと思います。そんな中、チームはどんな雰囲気だったんですか?
稲垣:当初はテキストしか送れないようなベーシックなメッセンジャーでした。今でいうスタンプも無いし、そもそも画像の送信とかもあったかな? っていうぐらいのものでした。シンプルなメッセンジャーという箱を作るだけだったので、“スピード勝負”みたいな感じがあって、成功するかどうかを気にする以上に、みんなとにかく集中していました。

マーケティングのチームが6月23日をターゲットにして、どこかの広告枠を押さえていたんですよ。でも直前までAppleのQAが通らなかったうえに、一度リジェクトされちゃたんです。

たぶんアップロードした時の単純な入力ミスか何かでリジェクトされて。誰が悪いというわけじゃなかったんですけど、その週末は泣きました(笑)。「みんなで頑張ってきたのに、こんなちょっとしたミスでリジェクトされた……」「これで6月23日に間に合わなかったらどうしよう……」って。たしかギリギリ当日までやっていた気がします。

--でも、実際にリリースしたところ、初日に予想を大きく超える反響があったんですよね? 手応えとして「これはいけるのでは」と感じたのはいつ頃でしたか?
稲垣:中東の最初のヒットが7月ぐらいにあった時ですね。6月にリリースして、当初は「8月までに“国内100万ダウンロード”」が目標でした。社内でも「友達や家族にいれてもらおうキャンペーン」をやりました。Amazonギフト券をあげるキャンペーンなんかもありましたけど、やっぱり最初は地道な感じでした。

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<七夕の日、社内の笹飾りに願いをこめる>

中東でのヒットが夏ぐらいで、10月ぐらいにアジア諸国で大きな反応がありました。香港では週末だけで15万DLとか。タイで1番になると、翌日はタイの隣のインドネシアで1番になって……というように、五月雨式に広がっていったんです。

10月からスタンプと無料通話もリリースしました。LINEのプロジェクトメンバーとしては「無料通話が絶対イチオシ」ということだったんです。でもリリースした後にTwitterなどで「スタンプがヤバい!」というボリュームが大きくなっていくのを見て、これは来たんじゃない!? と感じました。「スタンプが面白いからLINEを使おう」というのが見え始めた時ですね。LINEのスタンプのキャラクターが確立されていくステップと、LINEが確固とした地盤を作っていくっていうのがシンク(同期)していました。

「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」を受賞した2012年に、1億DLに行くか行かないかぐらいの時期だったんですけど、10月、11月頃に、ムーンやブラウンの“社内限定ぬいぐるみ販売会”がありました。ぬいぐるみ販売の盛況ぶりを見て、LINEのサービスやブランドが“会社がひとつになる”ということへの求心力になっていると感じられました。

LINEを作る立場の人間としては本当にうれしかったですね。

「決定者なんていない!」プロジェクトマネージャーとしての仕事術


--では、続いて稲垣さんの仕事のやり方をお伺いしたいと思います。最近はLINEバイトなどの新しい領域の仕事もされていますが、LINEを立ち上げた当初と今では“仕事のスタンス”は変わりましたか?
稲垣:変わってないですね。ユーザーが「良い」と思っているものは何なのか? を考えながら、競合のほかのサービスから何をインサイトとして学ぶのか、それを次のサービスにどう生かすのか――を企画者が考えて、デザイナーや開発者からアイデアを出してもらいながら、みんなで作っていくというスタンスです。

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これは私が関わるどんなプロジェクトでも同じだと思っています。最近よく感じるのは、「今年の方針はこうです!」というロードマップや目標を、マーケティングと企画だけで共有するのは止めた方がいいということ。

普段、開発やデザイナーが議論する際には、「新しいスペックをどうするか」ということに集中はしますけど、関わっているみんなが、「全体の中で自分たちのポジションはどこなのか?」「次は何を目指すのか?」「この機能とか意図は何なのか?」ということについて“腹落ち”してもらう必要はありますね。

その腹落ちを持って進むとブレないんです。開発やデザイナーはもちろん、それぞれのパートの人たちが優秀なので、「なぜこれが必要なのか?」を納得さえしてくれれば、じゃあそれに対して自分たちはどういうことができるのかを考えて動いてくれます。

--なるほど。その話に関しては「みんなに納得してもらうために“企画の内容を高める”方法」が分からない人。「お願いできない」「これを言ってもいいのだろうか」と悩む人の2つの軸で悩む人がいるように思います。稲垣さんとしては、これらの問題にはどう対処していますか?
稲垣:先日、「決定者が誰なのか分からなくて困っています」という話を聞いて、すごく新鮮だと思いました。会社の中に“決定者”なんていないんですよね。

私の場合は、みんながそれぞれ何を考えているのかはすごく大事な情報ですからちゃんともらいます。例えば、役員が「A、B、Cがほしい」とおっしゃっても、一番ほしいのはAで、B、Cは“あったらいいな”っていうニュアンスの場合がありますよね。でも、人によっては「いや、役員はA、B、Cの全部が必須だと言ってました」という風に捉えるわけですよ。

しっかりと「本当にやりたいのはどれですか?」と聞けば、「Aを押さえていればOK」になったりします。開発やマーケティングなど、それぞれの意見を合算したうえで、「今、私が最良だと思えるソリューションはこれです」と提案するんです。

そうすれば、それぞれの案を活かす部分と削る部分がハッキリして、内容は高まりますよね。それをちゃんと皆さんに説明する。そうすると「いいね」と言ってくれますよね。

--たしかにそうやって説明していただくと、もっともだな……と思うんですが、悩んじゃう人が多いのはどうしてなんでしょうか?
稲垣:先ほどお話した、「決定者は誰?」というスタンスになっちゃうと、決定してくれるのを待っちゃうんですよ。それが大きいのかもしれません。

--稲垣さんは待たない?
稲垣:はい。私は待ちません。みんなが抱えている不安要素を全部出してもらって並べた時に、「じゃあ、私はこの人にはA案で行って、たぶんダメだろうからB案を出して進める」というロードマップを自分の中で作るタイプです。

“自分が主”じゃないとダメだと思うんですよ。もちろん、みんなの意見を聞きつつですが、たぶんこれが“自分としてのベスト”という解を出したうえで確認して回ります。あとは説得大会ですね(笑)。

「役員はA案がいいっておっしゃいましたけど、ほかの要素を考えると今回はB案です!」と伝えます。そうすると、「じゃあこれはどうなるの?」「いつできるの?」という展開になりますから、それに対する代案を用意しておくんです。役員に対する説得ロジック、デザイナーに対するロジック、開発に対するロジックは全部別のものとして持っていきます。

それで、私が持っていくB案にみんなが「いいね」と言ってくれるように説得して、現場のみんなには「Bで決まったから、Bで!」という形にすると。だいたいその段階で現場のみんなが聞いてくることは、それまでの過程で私がすでに考えた他のオプションとかの案だったりするので、「それはこういう理由で効率的じゃないから」という風に説明できます。

考えがクリアになっていればいるほど、みんなが悩まずに進められる環境ができて、良いものを作ることに集中できると。「決めてください」というオープンクエスチョンは、基本的にありません。

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--企画者としての立場上、メンバーが増えていますよね。新卒もいますけど、どういうステップを踏んで仕事を教えていくんでしょうか? 特に新卒はまっさらな状態で入ってきます。
稲垣:企画の順番としては、まず他のサービスを調査して、そこからどういうインサイトを得られるのか――ですね。最初にそれを指示すると、だいたいインサイトを捕らえていない状態で、「こういう結果でした」と返ってきます。そうなると私からのフィードバックとしては「で、何が良かったの?」ってなるんです。

つまり、どのポイントが良かったのかを感じたり、判断したりする力が必要だと考えています。調査して、何からどんなインサイトを得られるのかという能力がまず最初ですね。その後に企画を書くと。でも、最初はみんな自信も知識もないので、そこに「意志」は見えません。

--やっぱりそうなりますよね。
稲垣:はい。特に新卒の場合は「これはどっちがいいですか?」という風になります。それに対しては、「どっちがいいか考えてから報告して」とは話しています。

「企画者とは調整することが仕事」だと思っている人は多いかもしれないけど、調整するためにはものすごく考えなきゃいけません。論理的に考えていればいるほど上手な調整につながります。「それだけ考えた上で言うのなら、それが正しいんだろう」という風にみんなついてきてくれると感じます。

ですから、最初から私が答えを教えるんじゃなくて、「自分は迷ったけど、こう考えてこう結論を出しました」っていうのを含めて報告してもらうんです。そして、「でもこれはこうじゃないの?」と戦うことで、今度は説得力などが強くなると思うんです。

それができるようになると、私がちょっとアドバイスしただけで、みんなを納得させて良いものを作れるようになるのかなと。だんだん企画の形が変わって、関わる人が増えて、他のプロジェクトとの連動が必要になって、全体像が大きくなっていく……という感じになればと思います。

稲垣さんのビジョンとは


--最後に、今後の夢やビジョンを教えてください。
稲垣:LINEのサービスに関しては、日本国内でこれだけ騒がれたり重要なものになってきていることへの責任、インフラとしての責任は強く感じています。いかに安定したものを提供していくかということは重要ですね。

グローバルで見ると、まだ上に強いプレイヤーがたくさんいるので、これらの競合相手に対して「自分たちはどんな付加価値を見出していけるのか」という課題があります。LINEバイトやクリエイターズマーケットなども含め、LINEというベースを使ってどう他に展開していくのか? という部分を考えていきたいです。他のサービスとつなげて展開できる余地はまだまだあると思っているので、チャレンジしていきたいですね。