4月1日、慎ジュンホが代表取締役CWO(Chief WOW Officer)に就任しました。これで、LINEの代表取締役が、出澤剛(代表取締役社長CEO)との2人体制になりました。

「最高WOW責任者」という、一瞬冗談にも聞こえる役職の使命はなんなのか。なぜいま代表取締役を2人にしたのか。“破格”と言われる「新株式報酬制度」を始める理由は? などなど。

一連の体制変更で浮かんだ疑問の答えを、本人たちに聞いてみました。そこから浮かび上がってきたのは、現状への危機感と「WOW」への強い意志でした。

代表取締役CWOの慎ジュンホ(左)と代表取締役社長CEOの出澤剛。立ち位置が近い。

慎ジュンホ(しん じゅんほ)
1999年にOZ Technology,Inc.入社、Neowiz Games Corporationを経て、2005年に1noon(現 NAVER Corporation)に入社する。2008年よりネイバージャパン(現 LINE)へ出向、企画本部本部長を務め、2011年にコミュニケーションアプリ「LINE」の企画開発に携わる。2012年、NHN Japan(現 LINE)に取締役として入社。2013年にLINE Plus Corporation代表取締役(現任)に就任。その後、LINEの取締役CSO、取締役CGOを経て、2019年2月に取締役CWOに就任。2019年4月からは代表取締役CWOを務める。

出澤剛(いでざわ たけし)
1996年に朝日生命保険会社に入社し、営業に従事。2002年にオン・ザ・エッヂへ入社し、2003年12月には執行役員副社長に就任。2007年4月に新事業会社となるライブドアの代表取締役社長に就任、同社の経営再建を果たす。2012年1月、NHN Japan取締役に就任。その後、2013年4月のNHN Japanの商号変更に伴い、LINE取締役に就任。広告事業を統括した後、2014年1月に取締役COOに、同年4月には代表取締役COOに就任。2015年4月に代表取締役社長CEOに就任。現職。

「WOW」と「Service Driven」


――「CWO」の「W」は「WOW」。LINEの価値基準ですね。「ユーザーを感動させる初めての体験」や「思わず友だちに教えたくなるような驚き」のことです。これを役職名に入れた意図はどこにあるんでしょう。

出澤:名前の発案は慎さんですよね。CIO(Chief Innovation Officer)という案もあったんですが、しっくり来ないということで。

慎:「イノベーション」は手段の1つにすぎませんからね。あえて「WOW」を入れたのは、「WOW」がLINEグループのコアバリューであることを社内外の皆さんに改めて示し、責任を果たしたいという思いからです。

――「責任」ですか。

慎:LINEグループのサービスの品質管理やイノベーションを推進するために、重要な役割をまっとうする。それを通して世の中に感動を与える責任です。「CWO」を名乗るのは、「WOWをストイックに追及していくぞ」という私の宣言でもあるんですよ。

出澤:でも慎さん、最初は恥ずかしそうに言ってましたよね(笑)。

慎:(笑)。舛田さん(取締役CSMO)から、それを言うときに笑っちゃったらダメですよって言われました。それくらい、最初は大丈夫かな、とみんな思っていたんですよ。でも、いろいろ話し合いながら、取材などを受けている内に、この役職名にして良かったと確信するようになりましたね。

出澤:最近、私が感じた「WOW」の話をしてもいいですか。自宅でClova Desk(LINEのAIアシスタント「Clova」搭載のスマートディスプレイ)を使ったときに、ウチの妻と子どもが、めちゃくちゃびっくりしていたんですよ。私の両親が住んでいる実家にもClova Deskが置いてあるんですけど、それでLINEのビデオ通話でしゃべったんです。そしたら、すごいWOWな体験だったようで。妻の友だちが家に遊びに来た時にも、「これ欲しい」って言ってました。

Clova Deskのイメージ写真。音声だけでLINEのビデオ通話が操作できます。

――そんな「WOW」とともに、LINEが創業時から大事にしてきた考え方として「Service Driven(サービスドリブン)」というものがあります。

慎:簡単に言えば、「全てのLINER(LINE社員)がサービスの向上を最優先で考える」ということです。会社組織が大きくなってくると、短期的な売上や効率を求めるあまり、肝心のユーザビリティをおろそかにしてしまいかねません。

我々の仕事はものをつくること。良いサービスをつくるためにLINERがいる。決して、LINERや経営陣の利益のためにサービスをつくるわけではない。その順番を間違えないように「Service Driven」を掲げているんです。

出澤:LINEは2016年7月に上場しましたが、それに伴って、Service Drivenな考え方が薄まってきたのではないかという危機感を抱いたんです。上場すれば、今まで以上に売上や効率のバランスを取らなければならない。

でも、この世界では良いサービスしか生き残れませんし、これからの世の中を変えていけません。徹底的にサービスにこだわることが、結局は長期的な会社の成長につながる。それを明示的に宣言したのが「Service Driven」なんです。

2019年以降は「第2創業期」と位置づけて、Fintech、AI、Blockchainといった新しい領域で挑戦を続けていきます。「第2創業期」という言葉には、ある意味で初心に返り、ユーザー目線で良いものをしっかりつくっていこうという気分も込めています。

「LINE Pay」がトリガーになる


――新しい領域の中にも、優先順位はあるんでしょうか。

出澤:新しい領域はこれでも絞ったんですよ(笑)。今はあまりにもインターネットの関連する領域が広いですし、なんなら「インターネット」という言葉すらも古くなっていて、わざわざ「インターネット」なんて言わなくても、我々の生活の一部に溶け込んでいる。つまりインターネットの会社である我々が課題解決できる領域、言い換えるなら「WOWを提供できる領域」は、ものすごく広いんです。

その中であえて重み付けをするなら、そうですね、LINE Payには特に力を入れていると言えるでしょう。LINE Payがトリガーになって、いろいろなものが連鎖的に変化していくので。

慎:新しいサービスの成否は、現在のユーザーがその価値を理解できるか、受け入れる市場環境が整っているかどうかにかかっています。ユーザー側に受け入れる態勢が整っていないのに、会社の都合として事業を強引に進めたところで成功しません。その意味で、Fintechやそこに含まれるLINE Payに関しては、受け入れられる市場環境が整ったと言えるでしょう。2019年から2020年にかけては成熟の時期だと思います。

――Fintechの中でユーザーがもっとも体感しやすいのは、決済だと思います。昨年末以降、LINE Payを含む、いくつかのサービスが大型キャンペーンを展開している中で、LINE Payの勝算はどう見ていますか。

慎:我々には2つの優位性があると思っています。1つは、コミュニケーションアプリとしてのLINEが、今やスマホの中で毎日必ず触れる存在になっているということ。毎日のように触れる、それはつまり「財布」と同じですよね。LINE利用者にとって、財布機能としてのLINE Pay決済は親和性が高いと見ています。

2つ目は、LINEアプリを介して既につながっている人がものすごく多いということ。これはLINE Payの個人間送金で有利です。相手の口座番号などを改めて入力する必要がなく、簡単にお金を送れますからね。

中国のWeChatが中国国内で、「WeChat Pay」を爆発的に普及させた例を見てもわかる通り、既存のネットワークがベースにあるサービスはキャッシュレス決済市場でも強いんです。

出澤:キャッシュレス決済の市場全体を見渡すなら、今後は企業・個人間の利用がもっと広がってくるでしょうね。例えば、飲食店では店員を呼ばなくてもスマホでテーブルオーダーができて、そのままLINE Payで支払える。現金を取り扱わないのでレジ締めもめちゃくちゃ楽になりますし。もしアルバイトの方に払う給料がLINE Payで払えるようになれば、経理業務も軽減されます。資金繰りを電子決済化することでも、いろんなソリューションが図れるでしょう。

要は、今まで現金のやり取りで生じていた摩擦が、どんどんなくなっていく。そこに労力をかけなくてよくなるんです。それが飲食店であれば、減らせた労力をお客さんとのコミュニケーションの時間に振り向けられる。結果、サービスが向上するんですよね。

世の中におけるお金って、身体における血液みたいなもので、体中のすみずみまで巡っている。だからお金の「支払い」というものがキャッシュレス化によって変われば、それを起点にして世の中全体が大きく変わっていきます。

慎:もちろん、LINEにとってFintech以外の領域が重要でないということではありません。AI分野、音声認識なども重要な事業ですが、現時点で世の中の半分以上のユーザーが喜んで受け入れてくれる状態かというと、まだその段階ではないなと。もうちょっと世の中で音声認識技術が普及してからですね。今は市場の成熟度をじっくり見ている段階です。

慎がエンジン、出澤は船長


――代表取締役を2人体制にした狙いはなんでしょう。

出澤:今回、「WOW」が最重要だという方針を改めて打ち出しているので、そこを担うサービス周りのトップである慎さんに代表権を与えるというのは、実にLINEらしい判断だと思います。

慎:2人体制になって私と出澤さんがぶつかる心配は……ゼロではないですが(笑)。心配はしていません。同じ能力や役割を持つ人間がダブル代表になったわけではないので。

出澤:そうですね。我々2人に舛田さんを加えた3人の「トロイカ体制」を10年近くやっていて、それはこれからも続きますけど、うまく役割分担ができていましたから。今日も3人のグループチャットで、ああだこうだやっていましたよね。

スタンプが飛び交う3人のLINEグループ。

慎:我々は互いの良い部分を生かして、シナジーを構築していますよね。代表2人体制でも同じことです。

出澤:アグレッシブに切り開いていくのが慎さんですよね。船でいうと、エンジンが慎さんで船長は私かな(笑)。あと、慎さんは優しいんですけど、やっぱり父性的で、私はどちらかといえば母性的かなと思います。

慎:そうかもしれません(笑)。相互補助の関係になっていますね。

――組織まわりでは、2月からカンパニー制を導入していますね。各カンパニーのCEOに権限をもたせていて、その上にお2人がいます。

出澤:これだけ大きな組織になってくると、スピードがどうしても落ちてくる。だからカンパニー制にすることで、判断のスピードを早めようという意図です。

ただ、カンパニー制にすると、ユーザーにとっての価値、つまり「WOW」よりもビジネス的な価値を優先してしまうカンパニーが、もしかすると出てくるかもしれない。だから大原則である「Service Driven」を遵守してもらうべく、慎さんが代表権のあるトップとして一番大事な部分をグリップして求心力を保ちます。

カンパニー化して身が軽くなったチームでは、ぜひLINEを超えるようなプロダクトをつくってもらいたいですし、それを狙った組織変更であるとも言えます。うまくいった暁には、かなり大きな報酬が生まれる仕組みも準備しています。それが、新株式報酬制度です。

新しい株式報酬制度は大胆に


――新しい株式報酬制度は「2019年12月期から3年間のLINEグループの役職員の貢献に対して、発行済株式総数の年約3.6%相当、3年合計で約10.8%相当のストックオプション、またはその他の株式報酬を発行し、付与」するというものですね。「3年で10.8%」というのは、国内企業としては破格だそうですね。

出澤:実はアメリカのIT企業の事例を参考に設計したんですよ。というのも、我々の業界は人材がすべて。グローバル基準の本当に優秀な人に来てもらいたいんです。他方、今のLINERにも、やり甲斐のある環境の中で、いきいきとはたらいてもらいたい。いずれグローバル基準の人材に成長していってほしい、という願いも込めています。この株式報酬制度はかなり大胆な設計ですし、日本のIT企業では他に類を見ないんじゃないでしょうか。

慎:FintechやAIの分野では、もはや人材の獲得で欧米の企業と競わなければならない時代です。優秀な人材を集めることによって新しいビジネスの柱を構築しなければ、長期的に持続可能な会社になれませんからね。

出澤:LINEの会社規模は近年ずいぶんと大きくなりました。それは良いことなんですが、大企業はどうしても安定志向になりがちです。ですから、ここで大胆な報酬制度を導入することで大胆に挑戦したい人が報われるようにしたかった。むしろ経営者である我々自身が、自分たちはベンチャーであり、スタートアップ企業であるという意識でやっています。

Fortune 500(米ビジネス誌「Fortune」が年1回発表する売上高上位500社のリスト)のリストにある会社が、どれくらいの期間、存続しているかという調査があるんですよ。それによると、1950年にはだいたい75年くらい存続していたのが、2015年には15年しかもたない。インターネット業界に限定すればもっと短いでしょう。1つのサービスをヒットさせたからといって、それを地道に成長させていくだけでは数年しか生き残れない。特にIT業界での安定志向は危険なんです。

2019年株主総会の戦略プレゼン資料より。

慎:今のLINERの過半数は入社3年以内の方ですが、LINEへの入社を決めた理由を聞いてみると「安定しているから」という答えが返ってくる(笑)。我々の求める方向性とは違ってきてしまっています。

出澤:極論すれば、大企業になっていくのは、すなわち死を意味しています。スタートアップ的な感覚で新しいチャレンジをすれば、もちろん失敗もたくさんあるでしょうが、同時に新しい柱も生まれていく。これを会社の中でサイクルにしたいんですよ。

カンパニー制の本質は、LINEという会社の中にいろんな規模のスタートアップ企業があるということなんです。それが株式報酬制度にもリンクしていますし、ゆくゆくは、あるカンパニー発のサービスが大きく成功して、そのカンパニーが上場する――なんてこともあるでしょう。

夢をかなえる最短距離


――LINERに配布した「LINE STYLE BOOK version2.0」のインタビューで、慎さんは「LINERのHAPPYの度合いを計るのは大事」と語っていました。新しい株式報酬制度以外で、LINERにとっての「HAPPY」はありますか。

出澤:1つは、挑戦できる材料が豊富だということです。LINEはいろんなセクションが多くのサービスを運営していて、たくさんのユーザー(コミュニケーションアプリ「LINE」は、国内の月間アクティブユーザー数が約8000万人、2019年4月時点)に使っていただいています。つまり、単一の小さな組織よりもずっと大きなチャレンジができる環境があるんですよ。

インターネット業界を志す人って、自分がつくったサービスが世界中の人々に使われて、世の中を少しずつ良くすることを夢見ていますよね。その夢をかなえるのに、LINEは日本で最短距離にいる会社だと自負しています。1人の社員がやったことが世の中に与えるインパクトは、おそらく他のどの会社よりも大きいはずです。

慎:ITの草創期は3人とか5人の会社でもよかったですし、スマホが出始めの頃も少数のメンバーを集めてスピーディにことを進めれば成果を出せました。でも今は、業界が成熟していて大企業がすぐに参入してくるので、ある程度の規模感をもって競争しないと成果を出せない時代です。開発の基盤になっているAIをとってみても、個人レベルで開発環境を構築するのは難しい。小規模の会社が成果を出すハードルは高くなりました。

そういった状況下で、スタートアップ精神で新しいことを生み出す志を持ちつつ、一方で成功の確率を上げる――といったバランスが取れる環境はどこだろうかと考えると、LINEは魅力的な選択肢になれると思います。

出澤:もう1つ、今の日本ではビジネスロジック寄りの会社が多い中、LINEほどプロダクトやサービスに向き合っている会社は少なくなってきています。ものをつくる力が会社の中にちゃんとあって、たくさんのユーザーを直接抱えているがゆえに自分のやったことの成果を世に問えるインパクトが大きい。自分の手で何かをつくりたいと思う人にとっては、とても良い環境ではないでしょうか。

逆に言うと、安定を求めている人はLINEに向いていません。我々は、世の中に新しい価値を問い続けないのは、ゆるやかな死だと思っているので。逆説的ですが、挑戦・挑戦・挑戦を繰り返すことではじめて、安定的かつ持続的な成長がある。我々は毎日挑戦していますし、日々方針変更もする。それに疲れちゃう人は向いていないでしょうね。

慎:今の職場環境で満足できていない人は、ぜひ来てほしいです。自分はもっとできるはず、権限さえ与えてもらえればチャレンジできる、もっと上を目指したい、成長したい。そんな人はきっとLINEに向いていますよ。



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ぜひ一緒にWOWをつくりましょう。

中央に舛田淳(取締役CSMO)を交え、格闘技団体の立ち上げシーンのようになった1枚。https://scdn.line-apps.com/stf/linecorp/ja/pr/KM1_5592_ogps.jpg