LINE株式会社にあらたに5人の執行役員が加わりました。今回はその中の一人、ビジネスプラットフォーム事業室の室長・杉本謙一が、いまどんなことを考えているのか、話を聞きました。

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※写真は2016/3/24に開催したLINE CONFERENCE TOKYO 2016での登壇時

LINEを企業と個人のプラットフォームとしてオープン化する「ビジネスプラットフォーム事業」の推進者として、LINEが目指している未来について語ってもらいました。

LINEが目指すビジネスプラットフォームとは?


――ビジネスプラットフォーム事業室について、改めて説明していただけますか?

杉本:ビジネスプラットフォームのミッションは、LINEというメッセンジャーをあらゆるビジネスのプラットフォームにして、企業とユーザーの距離を縮めていくことです。

先日の「LINE CONFERENCE TOKYO 2016」でも発表しましたが、「LINEを企業と個人を繋ぐプラットフォームとしてオープン化」することで、ユーザーが、LINE上でより多くのサービスを気軽に、便利に利用できる基盤を準備しています。
これまで、LINEのプラットフォームは、どちらかと言うと閉鎖的と言われていました。LINEが提供するサービスや、大手企業を中心とした一部のサービスに限られていました。その中で、成功してきたノウハウをパッケージ化して、外部パートナーにも開放し、LINEのユーザーにより多くの利便性や選択肢を提供していく方向に戦略をシフトしました。

例えば、ネット上で買い物をするときや、さまざまな企業のWebサービスを使うとき、「アプリのインストール」や「ログイン」、「会員登録」無しにLINEで決済までできたら、手間が省けて便利ですよね。

企業側にとっても、LINEでプッシュ通知ができて、しかも一人ひとりの好みに合わせて最適な情報を最適なタイミングで届けられるなら、アプリのインストールと継続利用に多額のマーケティングコストを投資せずとも、顧客のロイヤリティをより高めることができると思います。

LINEのアカウントを起点に、いろいろなサービスがシームレスに使えるようにしていきたいです。これら一連の機能に対応して、LINEユーザーにとっての利便性を高めてくれたサービスは「Official Web App」として、LINEからのサービス利用を促進していきます。

これまでに各領域を代表する40以上のサービスが対応の準備中でして、今夏をめどにリリースしていく予定です。プラットフォームのオープン化は、日本を皮切りに、台湾、タイ、インドネシアなどのアジア諸国を中心に海外でも、並行して推進しています。


――「例えば、これができる」というような代表的な機能を教えてください。

杉本:すでに、

などがLINEアプリだけで完結できます。いずれも、利用者のリピート率は高いです。

今後は、プラットフォームのオープン化を通じて、
  • 美容院の予約
  • 出前の注文
  • 大学生の就職活動
  • 物件の内見予約
  • 中古車の在庫確認

などもより簡単にできるようになります。面倒なコールセンターとのやり取りもLINEでできたり、人気店の行列に並ばずに順番待ちの整理券をLINEで受け取れたり。よく行くスーパーのチラシなども手元のLINEに届くようになります。

それだけでなく、レストランに入ったらすぐに使えるクーポンが届いたり、髪を切った1カ月後に「そろそろ、伸びていませんか?」とクーポンと一緒にリマインドしてくれたり。オンライン、オフラインを問わず、パーソナライズされた情報がスマートに届く仕組みを作っていきます。自ら主体的に探さなくても、必要な時に、必要な情報が、手元に届く、そんな気の利いたサービスを作れればと思っています。

まずは、日常生活で多くの人が不便に感じることを解消できるサービスから始めています。財布の中でかさばるお店のスタンプカード・ポイントカードを、LINEに集約して持ち歩かなくて済むようにするLINEショップカードや、周辺のお店が発行するクーポンをさっと探して、お気に入り登録できるCoupon Bookを3月24日にリリースしています。飲食店や美容院を中心に、多くのお店が日々使い始めてくれています。



メッセージングアプリのプラットフォーム化とAIの関係について


――ほとんどのメッセージング会社はアプリプラットフォーム化していると思いますが、そのような戦略にAIはどのように導入されると思いますか?

杉本:一般的に、機械学習が得意なことは大規模データからパターンをみつけて、予測と分類を高速、高精度で行なうことです。そのため、「よくある質問」などの定型的なやりとり、パターン化しやすいやりとりは、メッセージアプリでも最初の自動化対象になっていくと思います。

企業視点でも、コールセンターのコスト削減につながり、即時レスポンスで顧客の満足度も高まるなら、積極的な投資対象になる手応えがあります。コールセンターのLINE化を加速させるために、トランスコスモスさんとの合弁会社「transcosmos online communications株式会社」も設立しました。人とAIのハイブリッドで、利便性を大きく高めていけると考えています。

定型タスク、特定タスクのやり取りといった基本性能のあとは、“キャラクター”の勝負になってくると思いますね。Botが役立つのは当然として、対話する相手として面白いか、否か。 それも、ユーザー一人ひとりのやり取りから学習して、ユーザーに寄り添い、頼られて、ホッとしてもらって、時に笑ってもらえるBotになっていけるか。

単なるメッセンジャーではなく、オリジナルキャラクターでスタンプ・コミュニケーションを切り開き、メッセンジャー企業でほぼ唯一、独自キャラクターのライセンスビジネスも手がけてきたのがLINEです。シンプルさや経済合理性だけでなく、「なにこれ、かわいい」「面白い」といったエモーショナルな部分は、ほかのメッセンジャーがそれほど重視していない一方で、多くのユーザーが求めているLINEらしさだと思います。

そうした企業カルチャー、ブランドイメージを持つLINEとしては、特定のタスクを早く、賢く処理するだけでなく、曖昧な会話や、情緒ある会話に対してもキャラクターやスタンプの力で、面白おかしく、愛らしく切り返せるようになることを第1ステップの開発ゴールとしています。目下、新設の「LINE Data Labs」を中心に研究開発に取り組んでいます。

――現在、使用しているテクノロジーについて教えてください。

杉本:ディープラーニングの一種であるCNN(Convolutional Neural Network)も数年前から使っていますし、大規模なデータセットに対して高速にスケールできる機械学習アルゴリズムの独自開発もしています。
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たとえば、ディープラーニングの適用として、LINEらしく、わかりやすいところとしてはスタンプのレコメンデーションにおける画像認識などで使っています。レコメンデーションでよく使われる協調フィルタリング(例えば、「これを買った人は、これも買っています」)は、コールドケースと呼ばれる問題があり、新作の、まだ誰も買っていないようなスタンプは推薦できません。

そのため、新作スタンプと購買履歴のあるスタンプとの画像の類似性を推定することで、あふれるスタンプのなかで、まだ買い手のついていない新作スタンプも、それを好きになる確率が高い人に推薦して購買確率をあげることに成功しています。

――最近、Botが注目されていますが、LINEではどんな取り組みをしていますか?

杉本:LINEではリリース初期から機械翻訳Botが社内の日常コミュニケーションで頻繁に使われてきました。グローバルなプロジェクトのトークグループに招待されて使われています。その他、天気、占いもLINEの比較的初期から提供していて、トークルームで簡単に操作できます。

また、LINE NEWS、LINE LIVE、LINEマンガなどのBotも充実してきています。おすすめ情報のプッシュのほか、例えば、マンガタイトルで話しかけると、LINEアプリから離れずに、そのまま立ち読み(試し読み)ができたりしますね。

3rdパーティのBotとしては、バイト探しのパン田一郎が2014年7月、バーチャル女子高生との雑談を楽しめる、りんなが2015年7月、ピザが注文できるドミノピザアカウントが2015年9月、宅配便の再配達依頼ができるヤマトが2016年1月にリリースされています。他にも銀行残高の確認もBot経由でできたり、写真を送ると綺麗な年賀状にしてくれる郵便局Botなど、50以上の3rdパーティのBotサービス(BC)が提供されています。

これまで、Botが作れるメッセージングAPIは主に大手企業むけの価格設定で提供していましたが、4月7日には誰でも無料で作れて使える「BOT API Trial Account」をリリースしました。さらにこの夏には、BOT API Accountの一般オープンを計画しています。

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数多くプロジェクトを同時並行で進める方法


――組織構成や意思決定のフローを教えてください

杉本:ビジネスプラットフォーム事業室は、現状、事業戦略やアライアンスを推進するチーム、プラットフォームのオープン化を企画・推進するチーム、アカウントと連動する個々の専門機能や運営基盤を企画・推進するチームで構成されています。事業開発とプロダクトマネージャー(PM)がセットになって、開発やデザインチームと緊密に、グローバルでの各国の事業チームとも連携して、プロジェクトを推進させています。

プロジェクトの規模やフェーズによっても異なりますが、基本的には各PMが、それぞれのサービスにとってのいわば“ミニCEO”として、ユーザーリサーチ・競合調査から製品仕様やロードマップ策定を行い、デザイン、開発、マーケティング、バックオフィスの多くの部門と力を合わせて、インパクトのあるサービスを作るべく取り組んでいます。

また開発とデザインチームのプロダクトへのコミットメントが常に高いため、当初の仕様にとらわれず、リリース直前までより良くするための改善が、良い意味で諦めが悪く行なわれています (笑)。そういう意味では、全員がPMだと言っても良いかもしれません。

組織としてはフラットな階層を維持して、できる限り調整や決定のための会議・稟議プロセスで時間を取られないようにしています。実際、LINEだけで承認を済ませることも多いです。

大きな方向性を決めたら、プロトタイプをまず作り、関係者以外も含めてユーザー目線でダメ出ししながら、完成度を高めるプロセスを組み込んでいます。PMは担当サービスについて長く考えすぎているので、部外者の目線を持つのが時に難しくなります。最終的に決めるのはPMですが、PMが防衛的にならないように、作り手の人格とプロダクトを切り離して、ざっくばらんに意見交換ができるようにしています。

メッセージングアプリの未来像


――5年後のメッセージングアプリの未来像はどのようになっていると思いますか?
杉本:あらゆるコミュニケーションがメッセージングアプリから始まる世界が来ていると思います。肌身離さず持ちあるくスマートフォンで、メッセンジャーがあらゆるサービスの入口と出口になっている。

IoT、Bot、AI、VR/ARなど、テクノロジーが高度化・多様化する一方で、多くの一般ユーザーはそこまでついていけません。アーサー・C・クラークは「高度に発達した科学技術は、魔法と区別がつかない」と言いましたが、いかに複雑さを感じさせない、無意識に利便性だけ享受できる直感的なUXへ仕立てられるかが、引き続きサービスの競争優位になっていくと思います。
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LINEのミッションはClosing the distanceです。人と人だけでなく、人と情報、人とサービスの距離を縮めていくことです。

5年以内には、あるいはもっと早い段階で、センサリングやバイオロギングを通じて、コミュニケーションを言語から非言語まで拡張し、たとえば赤ちゃん、植物、ペット、動物、家電、自分の身体など言葉が通じない相手とも距離が縮まるようなコミュニケーションサービスが実用性とエンタメを兼ね備えたかたちで多くのユーザーに利用されていたら面白いなと思います。

――最後に、今後どんな人と働きたいですか?

杉本:コミュニケーションの次の未来を、ワクワクしながら一緒に創っていけるプロダクトマネージャー事業開発担当を絶賛募集しています。

少し概論的になりますが、下記のようなパーソナリティやスキルセットをもつ方々と働きたいですね。

  • テクノロジー、UX、マーケティングの3つに精通、あるいは高い関心を持ってアンテナ高く吸収している人。
  • ユーザー体験、ユーザーへの提供価値を最重視しながら、スケーラブルなパートナーシップやビジネスモデルの構想・推進ができる人。
  • 曖昧で混沌とした状況でも、細かいところまで整理して、多くの人を巻き込みながら物事を前に進められる人。
  • 個別のアプリケーションやサービスよりも、プラットフォームという場づくり、エコシステム設計に興味がある人。
  • データドリブンな機械学習プロジェクトが好きで、使えば使うほど便利に、賢くなるようなサービス設計や部門間調整が得意な人。
  • 遠くの未来を見据えながら、今このタイミングでやるべきことに全力投球できる人。
  • フットワーク軽く、柔軟、スピーディーにアウトプットを出し続けられる人。
  • 夢や目的を定量化して、逆算してプロジェクトマネジメントしていく、目標達成意欲の強い人。
  • 厳しい状況でも、粘り強く、最後まで達成にこだわってやり切れる人。
  • 何よりも、良きチームプレイヤーの人。


LINEというプラットフォームをベースに、日本から世界に向けてコミュニケーションの未来や新機軸を展開していくプロジェクトはまだPhase0.1の段階です。

プラットフォームオープン化のコアメンバーとして、オーナーシップを持って、取り組んでいきたい方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度検討してみてください。

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