LINEの価値基準「WOW=NO.1」を生み出すために、社内のリーダーは「LINE STYLE」(LINEらしいやり方、考え方)をどう捉え、実践しているのでしょうか。

LINE STYLEの実践方法を紹介していく連載企画「私のSTYLE」の3回目は、LINE公式アカウントなどの広告事業や開発者向けプロダクトの開発を担当する垣内秀之と、LINEプラットフォームの開発統括を務める梁ソクホの登場です。

普段はあまりメディアに出ない二人に、「開発としてのLINE STYLE」について語ってもらいました。LINEらしい開発のやり方、考え方とは?


「WOW=NO.1」ボードを掲げるソクホ(左)と垣内。

垣内 秀之(かきうち ひでゆき)
執行役員、アカウントプラットフォーム開発担当。2007年にライブドアに入社し、ライブドアブログを担当。経営統合後の2013年頃から、開発3センターでLINEの初期のファミリーサービスやLINE@の開発に携わる。現在は開発4センターで、LINE公式アカウントや開発者向けプロダクトを担当している。

梁 ソクホ(やん そくほ)
上級執行役員、LINEプラットフォーム開発統括。韓国のNAVER出身。2007年のネイバージャパン設立時に来日し、検索サービスを担当。その後、LINE立ち上げ時の開発に携わる。現在は開発1センターに所属。LINEのサーバー開発組織の総括や、Blockchain Lab(JP/KR)のリーダー、2019年3月に立ち上がったData Science and Engineeringセンターのディレクションも行っている。


1時間たっぷり語ってくれました。

同シリーズの過去記事はこちら。

根幹にあるエンジニアの魂


――まずは仕事の内容と、お二人の関係性についてお聞かせください。

垣内:私は2007年にライブドアに入社しました。2010年にライブドアがNHN Japanに子会社化された後、何人かのマネージャーの方と「採用基準を一緒にすり合わせましょう」ということになって、その時にソクホさんに初めてお会いしました。

仕事内容でいうと、長らくライブドアブログを担当しながらも、会社が完全に統合した後の2013年頃からは、LINEの初期のファミリーサービスの開発やLINE@(2019年4月にLINE公式アカウントに統合)の手伝いもすることになりました。それ以降はずっとLINE公式アカウントをメインに担当しています。今のミッションは、LINEをビジネスで利用する方にとって使いやすいプラットフォームを作ることですね。

ソクホ:私はもともと韓国のNAVERで働いていて、2007年にネイバージャパンが設立されたときに日本に来ました。最初は検索サービスを担当していたのですが、そのあとスマホが普及して、いろんなアプリを作ることになり、ヒットしたLINEに注力するようになりました。垣内さんとは開発3センターがLINE Botのプラットフォームを開発した頃から一緒に仕事するようになりました。

垣内さんはLINE Botのプラットフォームにとって、生みの親と言っていいくらい絶対的な存在でしたので、開発者向けプロダクトも垣内さんがやってくれることになって本当によかったです。企画メンバーからの提案をどうすれば実現できるか考えて、スムーズなコミュニケーションで、開発以外のメンバーも理解できるようにまとめあげていく、それはスゴいなと思います。

立場上、マネージメントの仕事が増えていますが、やっぱり技術的な話をするときに垣内さんの目がキラキラするんですよね(笑)。そこが一番根幹にある部分なのかなと思います。



垣内:ソクホさんは話しやすいですし、優しいお兄さんという最初の印象から変わらないですね。それでいて、LINEのプラットフォームの内側を全部把握していて、なおかつ個別の事案に対して議論するときに技術的な指摘もしているのを見て、高い解像度で深いところまで見えている人だと感じています。最近ではブロックチェーンの新規事業もやっていて幅広いですよね。

ソクホ:私の仕事はいろいろあるように見えますが、だいたい繋ぎやサポート役です。新しい課題が出て「すぐに何とかしなければならない」案件を担当することが多いんですね。私なりにミッションとして考えているのは「LINEプラットフォームの開発組織の競争力を地道に高めながら、LINEプラットフォームや会社の拡張に合わせて、新しい組織をスムーズに立ち上げることで、次のステップで必要な開発組織力を前もって備えること」が一番近いかなと思います。

今の開発組織を生かして、新しいチャレンジができる組織の完成度を上げていく。例えば、プロジェクトマネジメントのスペシャリストを生かすための組織「Project Management Roundtable TF(Task Force)」や、Data活用を全社的に担当する組織「Data Science and Engineeringセンター」の立ち上げに貢献することなどですね。

開発としてのLINE STYLE


――開発として、特に意識しているLINE STYLEを教えてください。こちらの4つの中ではいかがでしょうか。


垣内:開発としては、「Always Data-driven(感覚ではなく、データ=事実を信じる)」ですかね。最初の「Users Rule(全ての原点は、ユーザーニーズ)」は前提として大事なんですが、それをどう把握するのかはデータを見ないとダメということです。

特に私が担当するLINE公式アカウントは、B to CのサービスではなくてB to B to C、つまり直接のクライアントとしては企業の担当者がいて、その先にその企業のお客様がいるというビジネスモデルです。そこで企業側の視点やニーズを把握するためには、実際どう使われているかというデータが大事になってきます。

さらに言うと、開発者は自分たちで数字を集められるので、データを集めて企画や営業のメンバーに、積極的に数字を提供するのも開発としての一つのミッションかなと思います。



ソクホ:垣内さんの話を聞きながら思ったのは、やっぱり開発の中でも役割分担があるいうことです。我々はLINEのアプリを利用するユーザーのデータを活用して、そのプラットフォーム上でビジネスを成り立たせています。我々開発1センターが担当しているサーバーなどの基盤の部分は、少しでもしっかりした土台を作ることが最重要です。なので、私は「Perfect Details(追求すべきは「紙一重」の違い)」を挙げたいです。

垣内:そうですね。開発3センターや開発4センターは、LINEというプラットフォームを利用している側なので、例えば「サービスが絶対に止まらない」という安定性の追求は、ソクホさんたち開発1センターの役割なんですよ。立ち位置がちょっと違いますね。実際、LINEのサービスって落ちないじゃないですか。過去のWEB開発の経験からしても、それってスゴいことだなと思います。

ソクホ:「Perfect Details」の具体例を挙げるなら、徹底的な「コードレビュー」があります。サーバーに関わる部分は、ストレージのコードを一つ変えただけでも他への影響が多く出てしまいます。それを最小限にするために、例えば、私がコードを作成したとしたら、他のメンバーがそのコードが正しいかどうか、細かくチェックしています。

ストレージの場合なら、1人が作成したコードを10人ぐらいで見て、「これはこうした方がいい」というコメントを100件くらいつけていきます。決してダメ出しをしているわけじゃなくて、「紙一重」の違いを追求していくプロセスなんです。本当にみんな職人だと感じますね。

LINEは主要4カ国だけでも1億6400万人(2019年6月時点)のユーザーが使っているプロダクトですので、ほんの少しの改善でも、全体への影響を考えたら大きな貢献になります。社会インフラとしての役割まで考えると、サードパーティに提供する開発者向けプロダクトを完璧にしたら、その分の社会的なコストや我々の運用コストが減るので、完璧さが大きな資産になっていきます。逆に何かを見落としていたら、後で負債になってのしかかってきます。



編集担当メモ:
100件のコメントはダメ出しではなく、「紙一重」を追求するプロセス。

「インターネット大好き」な人たち


――次はチームワークにまつわる項目です。この3つの中ではどれを意識していますか?


垣内:この中では「Open Communication, Vertical Decision-making(オープンな議論と、リーダーによる決断)」です。そもそもエンジニアになる人って、インターネット大好きなんですよ(笑)。そうすると、企画に関してもサービスに対しても、いろいろ思うことがあったりします。言いたいことがあるのに言えないのはフラストレーションがたまるので、コミュニケーションすることは大事だと思うし、どの案がいいか、いろんな人の意見を聞いて最善の案を決断していくのが大切だと思います。これは「LINE STYLE」の中でも好きな項目ですね。

ソクホ:私も「Open Communication, Vertical Decision-making(オープンな議論と、リーダーによる決断)」です。「オープンな議論」は自然にできると思うんです。「Decision-making」がうまくいかないのは、だいたいリーダーが誰なのかはっきりしないケースです。組織の枠組みとしてのチームリーダーだけじゃなく、実際に仕事をするときは、プロジェクト、ユニット、イシュー単位になることもある。その形を定義した上で、それぞれのリーダーを明確にすることが大切です。

垣内:あと、コミュニケーションは必ずしも口頭での会話に限らなくて、チャットとか、さきほどのコードレビュー、社内Wikiのコメント欄なんかもそうですよね。開発のメンバーはコードを見れば、それだけで分かることがありますから。他のメンバーのコード見るのは勉強にもなりますしね。

ソクホ:そうですね。社内で利用している「GitHub Enterprise」というソースコードの共有システムも、セキュリティとの兼合いもありますが、基本的にはプロジェクトに関わっていないメンバーでも見られるようにオープンにする方針で運営しています。



編集担当メモ:
決めるために、誰が決めるのかを決めておく。

プロジェクト名は割とおしゃれ


――続いて、働き方についての2項目ですね。


垣内:これは「1% Problem-finding, 99% Solution-making(「できない」から「できる」をつくる)」。というか、開発の仕事自体がこれです。へたしたら「100% Solution-making」のメンバーもいますね(笑)。

実は技術的に絶対できないことって少なくて、コストや時間、労力を掛ければ、やれることがほとんどなんです。できない理由としては、それらの制約があるか、あとは法的なものやポリシー的なものがあります。

ただ、できない理由を考えるよりは、「それはできないけど、これならできるよ」という代案を考える方に力を入れるべきだと思っています。開発としては、基本的には「できません」と言って断りたくないんですよ。まあ、魔法使いじゃないので、できないことはできないんですけどね(笑)。

ソクホ:私も「1% Problem-finding, 99% Solution-making(「できない」から「できる」をつくる)」ですが、これはちょっと裏の意味もあります。というのは、みんなソリューションを作るのは好きなんですけど、逆に問題提起が嫌いというか、問題提起は企画メンバーがやってくれるものと思いがち、ということです(笑)。

企画や事業側と一緒に定義する「must to have」の課題とは別に、絶対に必要ではなくてもちょっと期待している「nice to have」の要素にユーザーは感動しますね。「nice to have」は課題をよりよく解決する方法に近いです。それは開発の方で提案して実践するケースが多いし、効率もいいなと思います。

例えば、Early Bird TFは、OSの最先端機能を生かした「nice to have」の機能にいち早く対応するためのTFです。あと今取り組んでいる例では、「LINT(LINE for Next 10years)」というプロジェクトがあります。

垣内:プロジェクト名は割とおしゃれですよね。おしゃれなプロジェクト名をつけると、やる気が出るんですかね(笑)。

ソクホ:それも、あるかもですね(笑)。「LINT」は、LINEをリリースしてから10年くらいになりますので、ストレージなどの開発基盤自体をさらに改良して、次の10年につなげていこう、というものです。これは開発内部で問題提起して「Solution-making」まで行うというケースです。

垣内:開発だけで進むプロジェクトって、その意義みたいなものが、他のメンバーからすると分かりづらいかもしれないですね。コストをかけて、表面上は同じ機能を実現しようとしていたりするので。なかなか説明が難しいんですけど、その真意は裏側にあったりするんです。

ソクホ:渋谷の再開発みたいに、街を作り変えているのと似ているかもしれません。

垣内:いったん閉鎖したら、たぶん楽なんですよ、あれ。電車を止めて封鎖しちゃって、全部壊して作り直したら楽だと思うんですけど。実際は、渋谷の街には人がいるし。なので、あんな大プロジェクトになっているんだと思うんです。電車を走りながら修理するって、社内でもよく言っていましたね。

あと開発者ってコストが見えるんですよ。例えば、ここをこうすると便利なのは分かるけど、めちゃめちゃ大変っていうのも分かっているので、その案をあえて出さないとか(笑)。そういう意味でも、企画は企画で絶対必要です。無邪気にスゴく開発コストがかかる案を出してきたりするんですけど。



ソクホ:やってみると意外にできたりするし(笑)。

垣内:そうなんですよ。あとは、少し変えたらコストを抑えられる場合もあるし。だから開発だけがいても、何を作ったらいいかっていうのはまた別の話なので。いろんなメンバーと協力して初めて成り立つ仕事だと常に意識しないといけませんね。

――垣内さんが開発者向けプロダクトの開発で気をつけていることはありますか?

垣内:プラットフォームの開発は、まずニーズを聞いて、それに応えるために想定ユースケースをいろいろ並べながら、APIを設計していきます。そこで心がけているのは、必ず「余白」というか、想定外の使い方ができる余地を残すことです。

LINEの開発者向けプロダクトは、LINE社内の開発者や、LINEのエコシステム上で事業を展開している他の企業や外部の開発者の方に使ってもらえるものを開発するのがミッションです。当初から使い方を限定してしまうと、新しいものが出てこない。「あ、そういう使い方するんだ」と思いもしなかったものが見られると、ワクワクしますよね。でも、そういう余白を作るのは意外と難しいんですよ。セキュリティのメンバーに、「何でこんな余計なことするの?」って言われたりもするので(笑)。



編集担当メモ:
ユーザーが感動するのは「nice to have」。新しいものを生み出すために「余白」を残す。

勇気を出さないとやれない仕事


――最後の2つは、仕事に対するマインドについての項目です。


垣内:基本、仕事は楽しいものだと思っているので、「Enjoy the Challenges(ワクワクしなければ、仕事じゃない)」ですかね。今一番の悩みは、リフレッシュ休暇(入社日から満5年、10年、15年経った永年勤続者に10日間の有給休暇が付与される制度)をずっと取り損ねていることです。休んでいる間も、何か面白そうな会議があったら、参加したいじゃないですか。

ソクホ:垣内さんは、開発したプラットフォームがまさに世界を変えている最中なので、そのワクワクを感じている時期なんでしょうね。我々開発1センターは、先ほどの「LINT」のように、先を見据えて今変えていかなきゃならない時期なので、「Go Brave. No Fear. No Regrets(世界を変えるのは、大胆で勇気ある挑戦)」を選びたいです。ただ、エンジニアが勇気を出しすぎるのは無謀にもなりかねないので(笑)。問題提起して解決していく、というプロセスを通して大胆に挑戦していきます。

垣内:ほんと、ブロックチェーンも勇気を出さないとやれない分野ですからね。

ソクホ:ちょうど9月に「BITMAX」(仮想通貨取引サービス)をリリースしたところです。はじめた当初は、2年もかかるとは思ってもいませんでした。でも必要な技術なので、進めていてよかったですね。

垣内:8月にリリースされた「OpenChat」も、国内正式リリースされるまで長かったですよね(2017年8月にインドネシア、2018年9月にタイで同様のサービス「LINE SQUARE」をリリース済み)。

ソクホ:まだまだ課題が多いですけど、早くもいろんな事例が増えているので楽しみです。

垣内:意外と楽しいですよ。自分が住んでいる地域のOpenChatがあったので入ってみたら、「今から飲みに行きましょう!」というメッセージが深夜1時に流れてきたりして。これからどんな使われ方をしていくのか、期待しています。



編集担当メモ:
面白そうな会議には、いつだって参加したい。

もう1つのEnjoy the Challenges


――プライベートでも、チャレンジしていることがあれば教えてください。

垣内:定期的にいろんなことをしたくなるんですが、最近たまにするのが「ペン字講座」です。万年筆が好きなのと、あと普段まったく字を書かないので、漢字を忘れているんですよ。ホワイトボードに字を書くときに漢字が出てこなくて、カタカナとか英語でごまかすとか、ちょっとかっこ悪いじゃないですか。

ソクホ:私は昔からずっとゲームが好きなんですが、新しいものも必要だと思って、最近ピアノを学び始めました。好きでよく聞いていた「ENDLESS RAIN」(X JAPAN)を弾きたいってもう20年ぐらい前から思っていて。ストレス発散も必要かなと思って始めています。



以上、「開発としてのLINE STYLE」について語ってもらいました。皆さんの仕事でも、応用できそうなエピソードはありましたでしょうか。LINEの開発部門ではメンバーを募集しています。もし興味がありましたら、お近くのLINER(社員)にお声がけいただくか、下記のリンクからご応募ください。

LINEの開発部門では、下記のメンバーを募集しています。

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